蓄電池は日本経済の”絶対国防圏”か

先月、こんなことを書いた。

脱炭素の文脈で進むEV化の波に、聖域たる自動車産業が飲み込まれようとしている

plusminus0.hatenablog.com

 

記事中では、カーボンニュートラルを端緒としたEV化により、日本のお家芸かつほぼ唯一の飯のタネであった自動車サプライチェーンが再編を余儀なくされ、結果的にEVの重要部品のひとつである蓄電池サプライチェーンの脆弱な地域からは、自動車のサプライチェーンごと消え失せてしまうのではないかという懸念を述べた。

 

だが実は、カーボンニュートラルの達成に向けては、自動車の電動化だけでなく、再生可能エネルギーのさらなる普及も避けて通れない問題である(特に日本の電力はその85%が化石燃料由来である)。他方、九州電力管内では出力調整という、再エネ電力の系統からの一時的な切断といった現象も起きており、そもそも国内の電力系統が再エネのこれ以上の導入に耐えられない、根本的な課題が残っている。

闇雲に電力系統を強化するのは非効率であるから、再エネ発電所から系統に流れる電力量を調整する機構を設けたい、となる。するとここでも、蓄電池の導入が必要不可欠になるのだ。

 

再エネ導入なぜ必要

日本のCO2排出量のうち約16%は自動車由来であるから、EV化は効果が高い。ではなぜコストをかけてまで再生可能エネルギーの普及に走らねばならないのか。

環境:運輸部門における二酸化炭素排出量 - 国土交通省

 

それは蓄電池の製造過程で大量の電力を消費するからである。せっかく環境に良いからとEVを作りまくったとしても、Well To Wheelつまり製造時に使用した電力の発電にまで遡った場合、それが化石燃料由来の電力だったならば、足元をすくわれてしまう。先述したとおり、日本の電力の約9割は化石燃料由来であるから、まずはこの状況を何とかしなければならない。(ちょうど今年見直されたエネルギー基本計画においても、2030断面における再エネの割合が高められたところである。)

 

ちなみに、日本の火力発電は世界基準からすると2~3倍効率の良いものが導入されている。いかし、先のCOPの議論を見るまでもなく、日本の一人勝ちを許さない欧州のイニシアティブにおいて、「化石燃料」「火力」はもはや禁止ワード化されていて、取り合ってすらもらえない状況だ。

当然、昨今の状況で原子力を推進するわけにもいかず、図らずして再生可能エネルギーの主力電源化に舵を切らざるを得ない状況が徐々に現実味を帯び始めているのである。

 

蓄電池市場は日中韓の三つ巴…?

このとおり、今や蓄電池は単なる電気をためる道具ではなく、国の製造業やエネルギー計画を左右するキーテクノロジーなのであるが、問題はそれをだれがどこで作っているのかだ。

お察しのとおり、家電や半導体のように、数年前までは日本メーカーが技術アドバンテージにより市場の大半を確保していたものの、近年ではシェアを落としている(車載用は約2割、定置用では約5%)。

EVの普及やスマートグリッドの普及に伴う市場拡大に伴い、台頭してきたのが中国や韓国のメーカーだ。特に中国のCATLやBYD、韓国のLGやサムスンといったところが上位を独占している。対する日本勢はパナソニックが米テスラ向けにリチウムイオン電池の供給を行っており比肩しているが、次世代の大型電池(4680型)はテスラ自身が内製化を検討している状況だ。なお、国内ではそのほかにもトヨタ系のプライムプラネットエナジー&ソリューションズや、元日産の子会社EnvisionAESC、GYユアサ系のリチウムエナジージャパンやブルーエナジーといったプレイヤーがEV向け電池を供給している。

 

ゲームチェンジを

いずれにせよ、EV化を進めるためにはサプライチェーンを東アジアに頼らざるを得ない状況はしばらく続くことが見込まれるが、EUではサプライチェーンの域内化を進めるため、欧州バッテリーアライアンス(EBA)を組織し、経済安全保障的政策を検討しているようだ(加えて、EUの自動車メーカーが出資して立ち上げたノースボルト社は積極的な投資計画を打ち出している)。

そんな中、日本の強みがなかなか見えてこない。コスト競争では中韓に、環境規制では再エネ・原子力の比率の高い欧州にかなわないだろう。実質賃金が減少する中で国内のEV販売を上向かせるのは至難の業である。しかしシェアの拡大努力は必須であるとすると、やはり海外を取りにいかなければ話にならない。

まずは日本の強みを見出し、そしてそれを評価軸とした新たな価値観を国際社会に提案してみたい。例えば日本の電池は安全性が高いとか、そういったことは言えないだろうか。